白内障の手術が失敗して訴訟になったケースを解説

2022.01.22

白内障の手術が失敗して訴訟になったケースを解説

白内障は、目の中のレンズの役割をしている水晶体が濁ってしまい、光が通りにくくなり、見えにくくなる病気。

加齢とともに発症しやすくなり、ぼやける、かすむ、まぶしい、視界が暗く感じる、視力が落ちる、だぶって見えるなどの症状が現れます。

近代医学は進み、白内障は手術で治る病気になりましたが、白内障の手術が失敗してしまうこともあります。

この記事では、白内障の手術が失敗して訴訟になったケースを解説します。

白内障の手術が失敗して訴訟になったケース①

白内障の手術に失敗し、手術を受けた患者が左目を失明してしまった事例です。

東京地裁平成13年1月29日 判例タイムズ1072号207頁
No.144「白内障手術を受けた患者が術後眼内炎に罹患し左眼を失明。医師の過失を認めた地裁判決」

(争点)
Xが左眼を失明したことについて、Y病院に過失があるか
損害(Xに逸失利益が存在するか)

(事案)
X(大正11年生まれの女性)は、平成8年夏頃から視力の低下が気になり、同年10月18日、Y社会福祉法人が開設するY病院の眼科外来を受診した。担当医となったA医師(平成6年5月に医師免許を取得し、過去の白内障手術の執刀例は約20例)は、Xの両眼に老人性白内障を認め、より症状の強い左眼について、同年11月14日に眼内レンズ挿入術(以下、本件手術)を行うことを計画し、Xもこれに同意し、同月12日にY病院に入院した。

同月14日の術前にXに対し、抗生剤としてフルマリンの点滴が施された。Xは同日午後4時30分に手術室に入室し、午後5時10分に、A医師が執刀医、B医師(医師となって11年目で、白内障の執刀数は1500例程度)が助手となって本件手術が開始された。なお、Y病院では、経験の乏しい医師が手術を行う場合、必ず経験の豊富な医師が助手となることになっていた。

本件手術は、超音波水晶体乳化吸引術(以下、PEA)という方式で行われ、A医師は、手順通りに手術を進めたが、水晶体の核を超音波チップで乳化吸引する作業中、誤って水晶体後嚢を超音波チップで吸い込んでしまい、水晶体後嚢を破裂させた。そのため、その後の手術は、B医師が代わって執刀することになり、前部硝子体の切除を行い、眼内レンズを水晶体嚢外に固定し、手術終了時にテラマイシン眼軟膏を塗布して、午後6時7分に終了した。水晶体後嚢破裂後、これに必要な処置をして手術を終了するまでに20~30分を要した。

その後、Xは同月16日から看護師に右眼の痛みを訴え、同月18日のA医師及びB医師の診察で、左眼に眼内炎が生じていると診断された。そして、検査の結果、眼内炎の炎症が網膜へ波及していると考えられ、緊急に再手術をすることが必要と判断された。

そこで、Xの家族の要請により、A医師から交代してXの主治医となったB医師は、同日Xの硝子体切除、眼内レンズ摘出手術を行った。同月23日には、Xに眼痛はなかったものの、前日までの細菌検査で腸球菌が発見され、また、左眼にフィブリンが認められ、眼内の炎症が鎮静化しなかったため、同月28日に再々手術が行われ、炎症は軽度になった。

同年12月4日にXはY病院を退院し、その後もY病院外来で診察を複数回受けたが、結局、Xの左眼は失明した。

そこで、Xは、Y病院の過失により左眼を失明した、として、Y病院を開設するY社会福祉法人に対し、診療契約の債務不履行、不法行為に基づいて損害賠償を求めて訴えを提起した。

実際に裁判になり、医師の過失を認めた地裁判決がでたケースです。

裁判所が注目したのは、「Xが左眼を失明したことについて、Y病院に過失があるか」。

この点について、裁判所は、まず、本件手術中に手術時の創口からXの左眼内に常在菌としての腸球菌が侵入したことによってXの眼内炎が発生した、と認定。

損害賠償請求額は、患者の請求額が4400万円に対し、判決による請求認容額が逸失利益0円+慰謝料800万円(入院慰謝料含む)+弁護士費用100万円の計900万円となりました。

裁判所は、上記裁判所の認容額記載の金額で患者Xの主張を認め、損害賠償をY社会福祉法人に命じ事例です。

白内障の手術が失敗して訴訟になったケース②

続いてのケースは、白内障手術後に網膜剥離が発症し、視力が回復せず裁判になったケースです。

東京地裁平成15年5月7日 判例タイムズ1182号289頁
「白内障の手術をした患者に網膜剥離が発症し、視力が回復せず視力矯正も不能に。医師に緊急手術をしなかった過失を認め、患者の損害賠償請求を認めた地裁判決」

(争点)
1. 白内障手術中に毛様体を損傷した過失の有無
2. 9月2日の外来診療時に網膜剥離を見逃した過失の有無
3. 9月9日に網膜剥離を発見した後、緊急手術を実施しなかった過失の有無
4. 損害
(事案)
X(大正9年生まれのリハビリ専門医)は、平成5年2月24日から左眼の視力低下と視野欠損を訴えて、国立のY医科大学校病院(以下、Y病院)に通院し、原発解放隅角緑内障と診断された。同年9月2日には、これに対する手術を受けたが、左眼に視野狭窄が残った。

Xは、平成10年6月2日、Y病院で右眼の白内障が少しずつ進行しているとの診断を受け、同月3日の検査により水晶体皮質混濁が認められたため、これに対する手術を受けることになり、同年8月18日にY病院に入院したが、その時の右眼視力は0.6であり、視野は正常であった。

Xは、同月20日、Y病院眼科のA医師の執刀で右眼の白内障手術(水晶体嚢外摘出術と眼内レンズ挿入術)を受けた。A医師は、水晶体核の摘出をしたが、この際に硝子体圧が高かったため、水晶体後嚢が破損して硝子体が眼外に脱出してきた。A医師は、必要な処置をした上で経過観察をしたが脱出が進行する徴候はなかったため、手術を続行した。その後、水晶体の残存皮質の吸引時に上耳側の毛様体上皮が鋸状縁の部位から剥離した。そこで、A医師は眼底検査を行ったが、眼底後極部に網膜剥離は認められなかったため、手術を続行した。

その後、同月30日の退院時まで、Xには硝子体出血や硝子体混濁が見られ、フィブリンも認められた。同月28日の右眼視力は0.1であったが、翌日の眼底検査でも網膜剥離は認められず、硝子体混濁も徐々に消失していった。

同年9月2日、Xは、Y病院で診察を受け、B医師は眼底検査により周辺部に膜様物の立ち上がりがあることを認めたが、後極側に網膜剥離が生じていないことを確認し、膜様物については検査をしなかった。この時のXの右眼視力は0.1であり、Xは、飛蚊症に悩まされているとか、多重複視の症状があると訴えていた。

その後、同年9月9日の診察で、眼底検査の結果、A医師は上耳側周辺部に限局性の網膜剥離を発見した。B医師、C医師もXを診察し、中間周辺部まで及ぶ上耳側胞状剥離と、下方の巨大裂孔を認めた。A医師は、Xに対し、網膜剥離が発見されたので手術を実施する必要があるとの説明をし、翌日の9月10日か11日に入院することを勧めたが、その際に、緊急手術をしなければ網膜剥離が進行して視力が著しく低下し、場合によっては失明の危険があるというような説明は行わなかった。

Xは、9日の時点では自覚症状である視野欠損がなく、A医師の説明からも切迫性や緊急性を感じなかったため、自分の勤務の都合で同年9月12日に入院したいと希望した。これに対し、A医師は、もっと早くしなければ手遅れになるおそれがあるというような反論や説得は行わず、9月11日入院、14日手術という予定をした。

ところが、翌10日、右眼に視野欠損が自覚されてきたため、Xは11日午前9時30分に入院した。Xは入院時から右眼の飛蚊症と視野欠損を訴えていたが、当日は、C医師やA医師らがN学会に出席していたため、学会が終わってD医師が帰院した夕方まで医師による診察は行われなかった。D医師は診察において右眼周辺部に強い網膜剥離を認めたが、この時はまだ剥離が黄斑部に達しておらず、Xの右眼視力は0.4であった。

同月12日には、Xの網膜剥離はさらに悪化し、黄斑部にも剥離が及んで、右眼のほぼ全視野について欠損が生じたが、C医師、A医師とも、予定通り9月14日に手術を実施すれば視機能を回復させることができると判断し、緊急手術実施の決定をしなかった。

同月14日に網膜剥離に対する硝子体手術が行われたが、同年10月7日の検査ではXの右眼視力は0.1であり、その後もXは平成11年1月13日までY病院に通院したが、回復しなかった。

その後Xが他の大学医学部付属病院に転院した後、平成11年4月15日の検査で、右眼にも視野狭窄が認められ、平成12年5月22日には、右眼視力は0.04で矯正不能、網膜剥離後の網膜変性により視力回復は不能と判断された。

Xは平成14年11月21日、両眼の視野障害により身体障害程度等級2級の認定を受けて、身体障害者手帳の交付を受けた。

Xは、Y病院を運営する国に対し、医療契約上の債務不履行、不法行為に基づき、損害賠償請求を提起した。

こちらのケースの損害賠償請求額は、患者の請求額が計9769万7805円なのに対し、判決による請求認容額が休業損害0円+逸失利益1684万2179円+慰謝料800万円+弁護士費用250万円の計2734万2179円となったケースです。

白内障手術中に毛様体を損傷した過失の有無が認められて、裁判所は、上記裁判所の認容額記載の金額で患者Xの主張を認め、損害賠償の支払いを国に命じました。

手術を失敗しないためには

白内障と診断されて手術が必要になった場合、このような失敗した事例を見ると不安になってしまいますよね。

しかし、白内障の手術は安全性が確立された分野で、裁判になるような失敗よりも、数えきれないほど多くの成功実績がある手術です。

手術の方法や機械も充分な進化を遂げているので白内障手術に「失敗」はほとんどないと言えます。

ただし、少しでも失敗のリスクへ減らすには、クリニックや医師選びをしっかりとするようにしましょう。

基本的に、白内障手術には失敗はほとんどないため、医師は、手術を100%成功させなければならない手術です。

白内障手術で失敗しないためには、医院が、どれだけ最新技術にアンテナを張っているのかや、クリニックの施術環境の充実に目を向けてみるとよいです。

まとめ

今回は、白内障の手術が失敗して訴訟になったケースを解説しました。

この記事をまとめると、

  • 白内障手術の失敗で、病院や医師側の過失が認められたケースもある
  • 基本的に白内障手術は失敗しない
  • 失敗のリスクを軽減させるためにもクリニック選びは慎重に

以上となります。

現在白内障は、手術によって治る手術です。そのため、今回紹介したような失敗事例はありますが、安全性が確立されている手術なので恐れることありません。

ただ、何度も言いますが、クリニックや医師選びはしっかりとするようにして下さい。